最近、中古市場で Core Ultra 200 シリーズの ES 工程サンプルCPUを見かけるようになりました。価格はかなり魅力的です。ただし普通の B860 / Z890 マザーボードでは、この種の ES CPU を直接サポートしないことが多く、ES PCH を搭載したエンジニアリングボードが必要です。
主役は Q4A7 です。これは Core Ultra 9 285T の ES 版と考えられます。仕様だけ見るとかなり魅力的で、8P + 16E、合計24コア、NPU搭載、新しいアーキテクチャです。しかし TDP は 35W しかなく、テスト環境も BIOS が非常に簡素で、メモリ調整ができず、電源回路も控えめな B860 カスタムボードです。そのため、実際の姿は「安い24コア神CPU」という単純なものではありません。
01 このプラットフォームは何か
この CPU は Q4A7 です。同系統の ES 型番には Q4A9、Q4A6 などもあります。正式版 Core Ultra 9 285T に近く、主な違いは周波数と ES 状態にあります。機能面では、NPU と 24コア構成は基本的に揃っています。
組み合わせるマザーボードは B860 カスタムボードで、メーカー製PCや OEM 向けに近い設計です。通常のリテールボードではなく、拡張性も BIOS も控えめです。
- メモリスロットは2本。
- PCIe x16 グラフィックススロットが1本。
- M.2 スロットが2本。
- SATA ポートが2つ。
- 無線LANカード用スロットが1つ。
- 背面に USB 2.0、USB 3.0、USB 3.2 Gen2、Type-C、3.5mm オーディオ端子。
- フロント用 USB とオーディオ端子もある。
このボードで Q4A7 が使える理由は、Q3NQ に近い ES PCH を採用しているためです。通常のリテール B860 / Z890 には対応がないため、CPU が安くてもそのまま使うのは難しいです。
02 マザーボードの電源回路と部品
この B860 エンジニアリングボードの電源回路はかなり簡素です。CPU VRM にはヒートシンクがなく、パッドを見るとさらに部品が省かれていることが分かります。PWM は Richtek RT3635BJ で、理論上は複数の電源レールを制御できる3チャンネルコントローラです。
実際には iGPU 用電源がなく、映像出力端子もありません。電源構成はおおよそ次の通りです。
- コア用4フェーズ。
- SA 用1フェーズ。
- MOS は大中の
SM4373とSM4377。 - CPU 補助電源は 4pin のみ。
- マザーボード電源は 6pin で、通常の ATX 電源には変換ケーブルが必要。
- 通電すると自動で起動する。
かなり割り切った構成ですが、35W TDP の Q4A7 に対しては電源負荷は大きくありません。本当の問題は「動かせるか」ではなく、このボードの遊び幅と調整余地が非常に小さいことです。
03 この ES プラットフォームの現実的な弱点
現在、この種の Core Ultra 200 ES プラットフォームには大きな弱点が2つあります。
- DDR5 メモリしか使えない。
- 対応マザーボードが少なく、価格も安くない。
この種の B860 エンジニアリングボードは中古でも 600 元 近くします。決して投げ売り価格ではありません。Q4A7 本体は正式版 285T よりかなり安いものの、マザーボードと DDR5 メモリを合わせると、プラットフォーム全体の安さはそこまで極端ではありません。
利点は次の通りです。
- 正式版よりかなり安い。
- 24コア構成は残っている。
- アーキテクチャが新しい。
- 35W では温度と電力効率が良い。
弱点も明確です。
- マザーボードが希少。
- BIOS 機能が極端に少ない。
- メモリのオーバークロックやタイミング調整ができない。
- ES プラットフォーム特有の不確定要素がある。
- ゲーム性能は高レイテンシと低周波数の影響を強く受ける。
つまり、普通のユーザーが気軽に乗れるデスクトップ環境というより、低消費電力の実験用プラットフォームに近いです。
04 BIOS と認識情報
このマザーボードの BIOS は典型的なメーカー製PC風で、調整できる項目が非常に少ないです。メモリのオーバークロック項目はなく、基本周波数でしか動作せず、タイミングも手動変更できません。
OS とドライバーを入れた後、CPU-Z では完全な型番を正常に表示できません。Arrow Lake アーキテクチャの ES プロセッサ、TDP 35W、構成 8P + 16E として見えます。
- 24コア。
- 40MB L2。
- 36MB L3。
- 最大ブーストは約
4.4GHz。 - NPU 周波数は約
2.6GHz。 - iGPU/関連周波数情報は約
3.2GHz。
Windows 側では ES2 Q4A7 として識別でき、表示は Qray1500 に近いものになります。通常のリテールCPUではないため、互換性、安定性、BIOS サポートを正式版と同じように期待するべきではありません。
05 CPU-Z と Cinebench:結果が割れる
まず CPU-Z で簡単に測定すると:
- シングルスレッドは約
728点。 - マルチスレッドは
12000点近く。 - 定格の
i5-14600KFと比べて、シングルは約19%低い。 - マルチは約
17%高い。
CPU-Z だけを見ると、この 35W の 24コア ES はかなり強く見えます。
しかし Cinebench では印象が変わります。
- Cinebench 2023 マルチは約
17440点。 - Cinebench 2023 シングルは約
1937点。 - シングルは 14600KF より少し低いが、
4.4GHz対5.3GHzと考えると悪くない。 - マルチは逆に 14600KF より約
37%遅い。 - Cinebench 2026 マルチスレッドは約
4303点で、14600KF より約18%低い。
この差の理由は、CPU-Z の負荷が軽く、メモリ性能にもあまり敏感ではないためです。Cinebench や 7-Zip のような重い負荷では、35W の電力制限とメモリレイテンシ問題が大きく出ます。
06 メモリレイテンシが大きな問題
テスト環境の DDR5 は 5600 C46 に近い状態でしか動かず、AIDA64 ではメモリレイテンシが約 125ns に達しています。4400 C18 まで詰めた 14600KF 環境と比べると、レイテンシは約 1.5 倍 高いです。
DDR5 には帯域面の利点もありますが、高レイテンシは多くのデスクトップ用途やゲームに直接効きます。特にこの B860 エンジニアリングボードでは、メモリ周波数やタイミングを BIOS で調整できないため、ユーザー側での改善余地がほぼありません。
7-Zip でも同じ傾向が見えます。
Q4A7は約107.253 GIPS。14600KFは約129.279 GIPS。Q4A7は約21%遅い。
これがこのプラットフォームの扱いにくい点です。コア数が多く、低消費電力で、新しいアーキテクチャですが、メモリレイテンシと電力制限が多くの場面で足を引っ張ります。
07 35W 電力壁での周波数
AIDA64 のストレステストで FPU を30分走らせると:
- Pコア周波数は約
1.6GHz - 1.7GHz。 - Eコア周波数は約
1.8GHz。 - 消費電力は
35Wにしっかり制限される。 - CPU 温度は約
32℃。
整数 CPU テストに切り替えてさらに30分走らせると:
- Pコア周波数は約
2.8GHz。 - Eコア周波数は約
2.6GHz。
つまり、冷却が足りないのではなく、電力制限が非常に強いということです。温度は良好ですが、周波数は上がりません。低消費電力サーバー、NAS、長時間の軽中負荷には利点ですが、瞬間性能やゲームのフレームレートを求める用途では弱点になります。
08 ゲーム性能:ゲーム用CPUではない
ゲームは1080Pで5本を簡単にテストし、主に Q4A7 と i5-14600KF を比較しています。
CS2:
- 平均FPSは 14600KF の約
61%。 - 1% Low は約
60%。 - 0.1% Low は約
48%。
PUBG:
- 平均FPSは 14600KF の約
65%。 - 1% Low は約
32%。 - 0.1% Low は約
49%。
黒神話:悟空:
- 平均FPSは 14600KF の約
79%。 - 1% Low は約
64%。 - 0.1% Low は約
43%。
Cyberpunk 2077:
- 平均FPSは 14600KF の約
72%。 - 1% Low と 0.1% Low は約
67%。
Forza Horizon 5:
- 平均FPSは 14600KF の約
87%。 - 1% Low は約
78%。 - 0.1% Low は約
74%。
結論は明確です。CPU 周波数、レイテンシ、スケジューリングに敏感なゲームほど Q4A7 は弱く、GPU負荷が高く最適化の良い AAA タイトルでは差が縮まります。
09 ゲームが弱い理由
Q4A7 のゲーム性能が弱い理由は主に3つあります。
第一に周波数です。ゲーム負荷が上がると、消費電力の圧力で CPU 周波数が下がります。一部のゲームでは 3.8GHz 前後を維持できますが、3.0GHz - 3.3GHz まで落ちるものもあり、最大ブースト 4.4GHz には遠く届きません。
第二にメモリレイテンシです。DDR5 5600 C46 と調整不能な BIOS の組み合わせにより、メモリレイテンシが悪くなります。多くのゲームはレイテンシに敏感です。
第三に、Core Ultra 200 シリーズ自体のコア間レイテンシ問題です。D2D や NGU 周波数の低さも性能に影響します。手動で上げるには通常、高級な Z890 プラットフォームが必要ですが、今回の環境は B860 エンジニアリングボードなので、ほぼ調整できません。
そのため、周波数や電力制限が少し高い Q4A9、Q4A6 に変えても、ゲーム性能が劇的に変わるとは限りません。原因は単一CPUの周波数だけでなく、プラットフォーム全体の制限にあります。
10 7500F、14600KF とどう選ぶか
ゲームが目的なら、Q4A7 はあまりおすすめできません。ゲーム性能だけを見ると、14600KF に大きく劣るだけでなく、AMD の 7500F にも及びません。
現実的な総コストも考える必要があります。
7500Fは高くない。- AM5 の入門マザーボードも見つけやすい。
- メモリレイテンシを下げやすい。
- プラットフォームの安定性と BIOS 調整幅が良い。
Q4A7 のコア数とCPU単体価格だけを見てゲーム機を組もうとすると、かなり失望する可能性があります。これはゲーム用CPUとして考えるべきではありません。
11 向いている場面
Q4A7 が向いているのは次のような場面です。
- NAS。
- 低消費電力での長時間運用。
- 高周波数は不要だが多コアが欲しい用途。
- ES プラットフォームの不確定要素を受け入れられる。
- 希少なマザーボード、変換ケーブル、BIOS制限を含めて遊べる人。
向いていないのは次のような場面です。
- ゲームPC。
- 安定したメインマシン。
- 手動オーバークロック、メモリ調整、BIOS遊び。
- 互換性と安定性が重要な本番環境。
- 「24コアが安い」だけで買うこと。
テスト中には、理由なく起動しなくなり、CMOS クリアで復旧するケースも何度かありました。ES プラットフォームでは珍しくありませんが、普通のユーザーにはかなり面倒な問題です。
12 購入判断
低消費電力NAS、長時間の軽中負荷、多コアのバックグラウンド作業など、目的が明確で、ES マザーボードの希少さ、簡素な BIOS、偶発的な bug、DDR5 コスト、プラットフォームの不確定性を受け入れられるなら、Q4A7 は検討できます。
しかし、最低コストのゲームPCを組みたいだけ、あるいは Core Ultra 200 の本来の遊び幅を体験したいだけなら、この ES プラットフォームはおすすめしません。本当に Ultra 200 で遊びたいなら、正式版 265K + Z890 のような構成のほうが、性能、調整幅、安定性の見通しが明確です。
簡単にまとめると:
- 低消費電力の多コア実験:見る価値あり。
- NAS / 軽いサーバー:一定の魅力あり。
- ゲーム:おすすめしない。
- 普通のメインPC:おすすめしない。
- 純粋な DIY 遊び:多くの制限を受け入れられないなら、そこまで面白くない。
Q4A7 の仕様は確かに魅力的です。しかしこのプラットフォームの本質は「安い24コア」ではなく、「35W、ES、B860エンジニアリングボード、DDR5高レイテンシ、極簡BIOS」という制限です。これらを理解したうえで、初めてコストパフォーマンスを判断できます。